別居中の夫婦の間で、夫婦や未成熟子の生活費などの婚姻生活を維持するために必要な一切の費用(婚姻費用)の分担について、当事者間の話合いがまとまらない場合や話合いができない場合には、家庭裁判所にこれを定める調停又は審判の申立てをすることができます。調停手続を利用する場合には、婚姻費用の分担調停事件として申立てをします。
調停手続では、夫婦の資産、収入、支出など一切の事情について、当事者双方から事情を聴いたり、必要に応じて資料等を提出してもらうなどして事情をよく把握して、解決案を提示したり、解決のために必要な助言をし、合意を目指し話合いが進められます。
なお、話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には自動的に審判手続が開始され、裁判官が、必要な審理を行った上、一切の事情を考慮して、審判をすることになります。
夫婦には、民法上、同程度の生活を続けるためにお互いを扶養する義務があるとされています。
これは夫婦が別居していても同様で、夫婦である以上は、言い換えるなら離婚するまでは、収入の低いほうが高いほうに対して生活費を支払ってもらうよう請求することができます。これを婚姻費用といいます。
弁護士として相談を受けていると、別居や離婚をしたいと考えていながらも、自身の収入が低いので経済的に無理だと考えられている方が少なくないですが、諦める必要はありません。まずは婚姻費用をきちんと支払ってもらい、経済的な不安を取り除くことです。そして、そこから離婚をした後、どのように経済的に自立していくか、ご自身のライフプランを前向きに立てていくようにすれば良いのです。
それでは、婚姻費用はいくら支払ってもらうことができるかという点ですが、当事者間の話し合いで解決するなら、特に金額の上限等はありません。それぞれが納得しているなら、自由に決めれば良いわけです。
ですが、すでに別居中である夫婦間での話し合いですから、実際には当事者間の話し合いではまとまらないケースや、そもそも話し合いすらできないケースも多くあります。
そのような場合は、家庭裁判所に調停・審判を申し立てることになります。家庭裁判所では、まず、それぞれの資産や収入・支出等に関する事情等を考慮して、双方が納得するように話し合いを促してくれます。ですが、それでもなお双方が納得する形で話し合いがまとまらない場合(調停不成立の場合)には、家庭裁判所が一方的に婚姻費用の金額を決めてくれます(審判)。
そして、家庭裁判所では、婚姻費用の金額を決める基準として算定表というものを用いていますので、基本的には、算定表に従った金額婚姻費用の支払いを受けることができるようになります。
ただ、注意が必要なのは、婚姻費用についての裁判所の考え方は、過去に遡っての請求を認めることについて基本的に否定的であるという点です。本来婚姻費用が必要であれば、そのとき請求すればよいだけのことで、そうできたはずであるのに請求をしなかったということは、実際にはわざわざ相手方から婚姻費用を支払ってもらうほど生活が困窮した状態にはなかったのではないかというような疑問を持たれてしまうのです。
また、婚姻費用が請求できるのは、夫婦関係にある間だけですから、離婚することに決まってから、これまでの未払い婚姻費用を請求しても、同様に、認めてもらうことは困難でしょう。
ですから、別居を始めて生活費に困っているという場合には、我慢せずすぐに婚姻費用を請求するようにすべきです。